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鹿児島地方裁判所 昭和43年(行ウ)9号 判決 1975年12月26日

鹿児島県川内市御陵下町二九番一七号

原告

南日本高圧コンクリート株式会社

右代表者代表取締役

松下嘉明

右訴訟代理人弁護士

松村仲之助

同市若葉町一番二五号

被告

川内税務署長

久保一男

右指定代理人

小沢義彦

愛甲浦志

浜田国治

清水昭二

村上悦雄

宮田正敏

右当事者間の昭和四三年(行ウ)第九号法人税更正処分取消請求事件につき、昭和四九年一二月二日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

被告が昭和四二年七月一五日付で原告の昭和四〇年九月一日から昭和四一年八月三一日までの事業年度の法人税についてした更正および過少申告加算税賦課決定は課税所得金額六、八七〇万六、二二〇円を基礎として算出される税額をこえる限度において取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

主文と同旨。

二、被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  本件処分

原告はヒューム管、パイル、橋桁、矢板等の建設資材の製造、販売、およびこれに附加する工事の請負施行を営業目的とする会社であるが、昭和四〇年九月一日から昭和四一年八月三一日までの事業年度(以下「当期」という)分の法人税について、昭和四一年一〇月三一日被告に対し、課税所得六、四九七万八、四七三円、税額二、三四八万六、四三〇円とする確定申告をしたところ、被告が昭和四二年七月一五日課税所得を八、七五四万三、三六七円税額を三、〇四七万八、二〇〇円とするとの更正および過少申告加算税三四万九、五〇〇円の賦課決定(以下「本件処分」という)をして、そのころ原告に通知したので、原告は本件処分を不服として昭和四二年八月一二日熊本国税局長に対し審査請求をなしたところ、同局長は昭和四三年六月一四日右審査請求を棄却するとの裁決をして、同月一九日原告に通知した。

(二)  本件処分の違法性

1 事実誤認

(1) 本件処分は原告がその系列会社である株式会社植村組(以下「植村組」という)、および植村産業株式会社(以下「植村産業」という)に対する原告川内工場(以下「川内工場」という)における当期のプレストレストコンクリート矢板(以下「PC矢板」という)等の売上の一部について昭和四一年九月一日から昭和四二年八月三一日までの事業年度(以下「翌期」という)の売上に繰延べ処理したものがあるとして、これを当期の売上計上洩れと認定したうえ、右売上計上洩れを含めた植村組に対する当期のPC矢板の売上中に製造原価以下の金額で販売されたものがあるとして、法人税法第一三二条第一項を適用して、その売上額と被告の認定した売上額との差額をも当期の売上計上洩れと認定し、さらに原告から植村組に対する右差額と同額の寄付金計上洩れを認定してなされたものであるが、右各認定はいずれもそれに該当する事実がないのになされたもので違法である。

2 法解釈の誤り

(1) 税務署長は同族会社等の法人税につき更正または決定をする場合において、その法人の行為または計算でこれを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為または計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準もしくは欠損金額または法人税の額を計算することができる(法人税法第一三二条第一項)のであるが、右法人税の負担を不当に減少させるか否かは、本件のような系列会社間の行為計算については、両当事者を通じた法人税の合算額によって判定すべきである。

(2) そこで、仮に被告の主張する低価譲渡による売上計上洩れが認められたとしても、その場合は原告の売上金額が増加するが、同時に全く同額が植村組の仕入金額の増額となるから、それを計算すると、原告、植村組の合計課税所得金額はかえって減少し、法人税の負担は別紙計算書(一)(以下「計算書(一)」といい、その余の別紙計算書も同様とする)記載のとおり一万二、一六〇円減少することとなる。そうすると、原告の当期の行為計算は法人税の負担を不当に減少させるものでないことは明らかであるから、前記法条を適用してなされた本件処分はその解釈を誤って適用した違法なものである。

3 以上から、原告は本件処分のうち、課税所得金額六、八七〇万六、二二〇円を基礎として算出される税額をこえる限度において取消を求める。

二、請求原因に対する被告の答弁

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)1  同(二)の1のうち、事実誤認である旨の原告の主張は否認し、その余の事実は認める。

2  同2の(1)は争う。

法人税法第四条第一項は「内国法人は、この法律により、法人税を納める義務がある。ただし、内国法人である公益法人等又は人格のない社団等については、収益事業を営む場合に限る。」と規定し、個々の法人を独立した課税客体としている以上、たとえ系列会社として、おたがいに完全に支配、被支配の関係にある法人であっても、全く別個の課税単位として取扱っているのである。

したがって、原告の同法第一三二条第一項についての主張は、解釈論として全く根拠のないものと言わなければならない。

三、被告の主張(処分の適法性について)

(一)  翌期への売上繰延べによる当期売上計上洩れ

1 原告は別表(一)記載の各製品を、同表の原告公表売上計上高欄記載の各数量(数量に「内」として記載の分は植村産業に、その余は植村組に各販売したもの)、各販売価額(単価)により植村組および植村産業に対する翌期の売上に計上したが、右各製品はいずれも当期に販売されたもので、原告がこれを翌期の売上に繰延べしたものであるから、右販売額合計七七〇万二、九七五円は当期の売上計上洩れである(以下「翌期への売上繰延べによる当期売上計上洩れ」という)。

2 そして、翌期への売上繰延べによる当期売上計上洩れに対応する売上原価八一〇万七、四八八円は当期末たな卸高に計上されており、また右たな卸高を基礎とする価格変動準備金四〇万四、四一三円が計上されている。

(二)  同族会社の製品低価譲渡による売上計上洩れ

1 原告は法人税法第二条第一〇号所定の同族会社である。

2 別表(一)中(1)、(2)、別表(二)中(2)、(4)ないし(12)に各記載のPC矢板(以下「本件PC矢板」という)および別表(二)中(1)、(3)に各記載のPC矢板は、原告が植村組に対して当期に右各表の原告公表売上計上高欄記載の各数量、各単価で販売したものである。

3 本件PC矢板の通常の販売価額

(1) 本件PC矢板の製造原価

イ 原告の当期の決算における川内工場の製品についての別表(三)記載の原価計算表(以下「原価計算表(A)」という)によると、PC矢板、スラブ橋用プレストレストコンクリート橋桁(以下「PS桁」という)、プレストレストコンクリート板(以下「PC板」という)の三種の製品を集計するPS部門の製品製造総重量は四、九九五・四三六トンである。また原価要素としての材料費は二、一四二万〇、四二六円、労務費は八二九万八、七〇四円、経費は七三六万二、九一六円であるから原価の合計は三、七〇八万二、〇四六円である。そこで、右金額を当期の右製造総重量で除したPS部門の製品トン当り製造原価は七、四二三円となる。

原告は原価計算表(A)の右結果に基づき、PS部門の当期末たな卸資産の評価を製品の種類、品質、型の異なるごとに区別せず、一括して製品トン当り七、四三〇円で計算した。

ロ ところで、原告は昭和三四年一一月一〇日に設立された会社であるが、その設立直後の同年一二月二三日鹿児島税務署長に対して提出した、たな卸資産評価方法の届出書によればセメント製品は原材料先入先出法による総平均法(法人税施行令第二八条第一項第一号二)を採用する旨届出し、以来当期末までこの方法により評価してきた。

ハ そして、原告は右の方法によるたな卸資産の評価を行なうために、財務会計機構と結びついた常時継続的に記録される原価計算制度をとり、製造部門としてヒューム管、パイル、PS、ブロック、プレス側溝、蛇籠その他の各部門に分類し、まず各部門ごとに製品トン当りの総平均原価を算定している。

かくして、原告は右各部門の製品トン当り総平均原価を基礎として、法人税法施行令第二八条第一項第一号二所定の総平均法(たな卸の評価は種類、品質および型の異なるごとに区別して計算すべき旨規定している)により、たな卸資産を評価すべく、ヒューム管およびパイルの各部門の製品は種類、品質、型の異なるごとに、ブロック部門の製品は種類等の異なるごとに、または同一グループごとにそれぞれ区別して等級別総合原価計算をなしているにもかかわらず、PS部門の製品については種類、品質、型の異なるごとに区別せず、製品トン当り七、四三〇円で一括して評価したものである。

ニ 原告がPS部門のたな卸資産を右の方法で評価した理由は、原告が同部門の製品については、どの種類、品質、型のものであっても、そのトン当り製造原価はほぼ同一であると判断したためであると考えられるから、本件PC矢板の製造原価は、製品トン当り七、四三〇円であると思慮される。

(2) 植村組およびそれ以外との各取引における販売実績の比較

イ PS部門の当期の売上を各取引ごとの販売先、製品の種類、規格、数量、販売価額(単価)、売上額、製品一本当りの重量、製品トン当りの販売価額、総重量と、これを植村組およびそれ以外との各取引に区別して各集計したPC矢板、PS桁、PC板、PS桁・PC板、PS部門全体ごとの各合計売上額、製品トン当り平均販売価額、総重量は別表(四)の一ないし三に記載のとおりである。

ロ 別表(四)の一ないし三によれば、PC矢板の当期の製品トン当り平均販売価額は、植村組以外との取引分については一万六、一四六円であるのに植村組との取引分については六、四六四円と著しく低額となっている。

(3) 県導流堤工事の設計額

イ 原告が植村組に対し当期に販売したPC矢板は、植村組が鹿児島県から請負った川内港の導流堤工事に使用されたものである。

ロ 右請負工事の各契約別の工事名、工事場所、工事期間、請負金額、工事代金の設計額(鹿児島県があらかじめ入札前に作成した各契約ごとの見積)、および右設計額におけるPC矢板の設計額は別表(五)記載のとおりである。

ハ そして、別表(五)記載の各請負工事の請負金額の各設計額に対する割合はいずれも約九九%であるから、各設計額の積算要素たるPC矢板の価額が競争入札によって圧縮されるという程の影響はない。

ニ そして、右各設計額の内訳においては、PC矢板は製品キログラム当り一七・三円ないし一七・八円(トン当り一万七、三〇〇円ないし一万七、八〇〇円)で計算されているのである。

(4) 市場価額

イ 原告作成の昭和四二年四月一日付プレストレストコンクリート製品定価表(以下「原告発行定価表」という)によるPC矢板の規格別キログラム当りの定価は別表(六)中1欄記載のとおりであり、これによれば、最低価額のものでもキログラム当り一七・五円(トン当り一万七、五〇〇円)である。

ロ また、財団法人建設物価調査会発行「建設物価」誌(昭和四一年三月号、以下単に「建設物価誌」という)によれば、PC矢板とおおむね類似している長井式コンクリート矢板、圧力養生コンクリート矢板の各規格、各地域(東京、大阪、名古屋)別の製品トン当り市場価額は別表(六)中2、3欄に各記載のとおりであり、これによればその最低価額のものでもトン当り一万五、六〇〇円である。

なお、右最低価額は原告発行定価表の前記最低価額を下回るものであるが、原告は南九州一帯における唯一の矢板メーカーの地位にあること、およびPC矢板は超重量物であるため他の地域から南九州地域に搬入するとすれば相当多額の運送費を要すること等の有利な条件を背景として原告発行定価表を作成したものであるから、同表中1欄記載の各定価は妥当な価額である。

(5) 以上(1)ないし(4)の各事実を総合すると本件PC矢板のトン当り製造原価は少なくとも約七、四三〇円で、通常の取引におけるトン当り販売価額は一万七、三〇〇円であると解される。

4 低価譲渡

しかるに、本件PC矢板の原告公表の前記販売価額(単価)は、いずれも一万七、三〇〇円に各規格の一本当りのトン数を乗じて得られる通常の取引における販売価額(単価)だけでなく、別表(一)、(二)中各たな卸計上高欄記載のたな卸評価額さえも下回る不当に低廉なものであって、かかる低価額による本件PC矢板の販売は、営利を目的とする会社の通常の取引においては全く考えられない不自然、不合理なものであって、これは原告が同族会社であることによって恣意的になされたものと解するほかなく、これを容認すれば原告の当期における法人税の負担を不当に減少させる結果となる。

5 原告の行為、計算の否認

よって、本件PC矢板についての原告の行為、計算を否認し、本件PC矢板のうち別表(二)中(2)、(4)に各記載のものを除くその余の各売買については、別表(一)、(二)中各たな卸計上高欄記載の各たな卸評価額にその三〇%に相当する一般管理費および純利益を加算して求められる(一〇円未満四捨五入)、右各表中被告認定売上計上高欄記載の各価額で販売されたものと認定し、また昭和四一年三月三一日に販売された別表(二)中2記載のPC矢板は、これと同一製品である同表中(1)記載のものの販売価額(単価)が二万八、六〇〇円(昭和四〇年一〇月三一日に販売された)であるのに、販売価額(単価)一万六、〇〇〇円で販売され、同様に昭和四一年三月三一日に販売された同表中(4)記載のPC矢板は、これと同一製品である同表中(3)記載のものの販売価額(単価)が二万四、五〇〇円(昭和四〇年一〇月三一日に販売された)であるのに、販売価額(単価)一万四、〇〇〇円で販売され、それぞれ値下げされているが、右各値下げについてこれを相当とする特段の事情がないので、同表中(2)、(4)記載の各PC矢板はそれぞれ従前の単価で販売されたものと認定した。

かくして、本件PC矢板の低価譲渡による売上計上洩れは合計二、〇二九万四、三七〇円となるが、右金額については同額の金員が原告から植村組に対して寄付されたものと認定した。そして、これによる法人税法第三七条第一項の寄付金の損金不算入額は計算書(二)記載のとおり、一、九二四万一、六六〇円となる。

(三)  以上の事実を基礎に原告の当期分の課税所得を計算すると計算書(三)中更正額欄記載のとおり八、七五四万三、三六七円となるから、本件処分は違法なものではない。

四、被告の主張に対する原告の答弁

(一)1  被告の主張(一)の1のうち、別表(一)記載の各製品が当期の売上であるとの事実は否認し、その余の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

(二)1  同(二)の1の事実は認める。

2  同2のうち、別表(一)中(1)、(2)記載の各PC矢板が当期の売上であるとの事実は否認し、その余の事実は認める。

3(1)イ 同3の(1)のイないしハの各事実は認める。

ロ 同ニの事実は否認する。

PS部門の製品の製造原価は、種類、品質、型の異なるごとに大差があり、それぞれ受注生産であるところから、本来は各受注製品別に製造原価を計算しなければ正確なたな卸資産の評価をなしえないのであるが、PS部門の製品は各種類における型が多数であるため計算手続が技術上複雑で計算に長時間を要するため、やむをえず、右製造原価の差を無視してPS部門のたな卸資産につき、一括して製造原価を計算し、たな卸の評価をしたものである。そこで、PS部門の製品をPC矢板とPS桁・PC板に二分し、プレス側溝および蛇籠その他の各部門を合わせて蛇籠他部門として、原価計算(A)を修正すると別表(七)記載の原価計算表(以下「原価計算表(B)」という)のとおりとなり、これによれば、PC矢板のトン当り製造原価は四、九四〇円である。そして、四、九四〇円に本件PC矢板の各規格の一本当りのトン数を乗じて得られる各製造原価と各販売価額(単価)の関係は別表(八)、(九)に各記載のとおりであり、本件PC矢板には製造原価以下で販売されたものは全くないのである。

また、もし被告が主張するようにPS部門の製品すべてについて単一に製品トン当り製造原価が七、四三〇円であるとして、当期に原告が販売したPS部門の製品の一部についてその販売価額(単価)と右製造原価に各製品の一本当りのトン数を乗じて得られる各製品一本当りの製造原価、およびこれによる売上利益を計算すると別表(一〇)記載のとおりとなり、これによれば各売上利益の各売上金額に対する各比率(以下「売上総益率」という)は、厚さの薄いPC板については五七ないし七七%、PS桁については五五ないし五七%という異常に高率な売上利益が算出されることになるのである。このことは、PS部門の各製品の製造原価に大差のあることを示している。

また、製品の販売価格の計算は、企業が製品の価格に関する決定をするために随時なされるもので、それは経常的な原価計算だけでは不充分であって、特殊調査を中心とした、いわゆる差額原価収益分析によって行なわれる。だから、いわゆる財務会計目的のために財務会計機構と結びついて経常的に計算された原価計算表(A)のみから直ちに製品の販売価格の計算をすることはできない。

(2) 同(2)のイ、ロの各事実は認める。

(3)イ 同(3)のイの事実は認める。

ロ 同ロのうち、別表(五)中矢板工の設計額欄記載の事実は知らないが、その余の事実は認める。

ハ 同ハの事実は否認する。

ニ 同ニの事実は知らない。

(4)イ 同(4)のイの事実は認める。

但し、この種の製品は大量に製作されるものではなく、数拾個を越える注文があることは全くまれである。したがって、原告発行定価表はこの少量生産の特性を考慮して定められたものである。

そして、実際の受注にあたっては、数量、取引条件等を考慮して、その都度製品の価額を決定しており少量を生産する場合は型枠等の製作に要する費用が割高となるために価額が割高となるが、大量生産の場合は製造原価は低廉なものとなるので割安の価額で販売されるのが実情である。

ロ 同ロのうち、建設物価誌によれば、長井式コンクリート矢板、および圧力養生矢板の各規格、各地域(東京、大阪、名古屋)別の製品トン当り市場価額は別表(六)中1、2欄に各記載のとおりであることは認め、その余の事実は否認する。

4  同4のうち、本件PC矢板の各販売価額が被告主張どおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同5の主張は争う。

なお本件PC矢板は、植村組が川内港の導流堤工事を請負施行することによって、発注されたものであるが、昭和四〇年会計年度工事として請負った工事のため製造納入された別表(二)中(1)、(3)記載の各PC矢板は、その後追加注文があるという保障はなかったので、法人税法上型枠は三年間に減価償却費として製品に負担させることを予定されているにもかかわらず、右各PC矢板の型枠費用を右各PC矢板の販売代金から回収することとして、右各PC矢板の販売価額は決定されたのである。

だから、その後植村組が継続工事として川内港の工事を昭和四一年会計年度も請負うことにともなって植村組から原告に対して注文のあった別表(二)中(2)、(4)記載の各PC矢板はいずれもその型枠費用が回収済みであったため価格の引下げを行なったものである。

なお被告主張の売上計上洩れが認められるなら、寄付金および寄付金の損金不算額についての被告の主張は認める。

また、被告主張どおり本件PC矢板の低価譲渡による売上計上洩れが認められるなら、その結果として当期における売上総益率が異常に低下するはずであるが、別表(二)記載のとおり、当期とPC矢板の販売価額について争いのない、それ以前の三事業年度を比較してもかかる事実は認められないのである。

(三)  同(三)のうち、計算書(三)中原告主張欄と一致する更正額欄の各記載は認め、その余の事実は否認する。

五、原価計算表(B)に対する被告の反論

(一)原価計算表(A)、(B)の比較検討

1 別表(三)記載の原価計算表(A)とこれを修正して作成された別表(七)記載の原価計算表(B)の各内容を、総額、各部門別に比較すると別表(一二)の一、二記載のとおりである。

2 別表(一二)の一、二によると、原価の総額の計算において、原価計算表(B)は同(A)に対し労務費で二八五万五、五三六円、経費で二七七万七、三六八円減少し、さらに同(B)で追加された減殺原価要素の屑鉄空袋処分五六万〇、六七六円を差引きすると合計六一九万三、五八〇円が減少している。

3(1) 原告はPS部門の材料費(セメント、砂、砂利)の計算について、PS部門をPC矢板とPS桁・PC板に二分した原価計算表(B)では、まずPC矢板の各規格の一本当りの各所要量を見積り、これに各規格ごとの当期中の製造本数を乗じて右各材料ごとに合計して消費量を算出し、これに右各材料の平均単価を乗じたものがPC矢板部門の右各材料費であり、PS部門の材料費からPC矢板部門の右材料費を差引いたものが、PS桁・PC板部門の材料費となるとの方法を採用している。

(2) 原価計算表(A)、(B)とも労務費の総額は、各部門のウエイトに各部門の当期中の製造重量を乗じて得た数値の比により各部門に割当てられているが、原価計算表(B)ではPS部門内のウエイトに極端な差異を設け、PC矢板四〇〇、PS桁一、二五〇、PC板一、三〇〇というようにPC矢板とそれ以外とでは三倍以上の格差をつけている。

(3) また、経費の総額を配分するにあたっても、原価計算表(A)では地料、減価償却費以外は合理的配賦として一括して各部門のウエイトに各部門の当期中の製造重量を乗じて得た数値の比により各部門に配賦していたが、同(B)では原価要素別に細分して配賦している。そして、同(B)では経費のうち消耗品費のウエイトをPS桁、PC板はいずれも3であるが、PC矢板は2としているため、PC矢板には消耗品費が少なく割当てられているのである。

4 右2の各減額および減殺原価要素の追加、ならびに右3の(2)、(3)の各ウエイトの設定につき、いずれもこれを首肯しうる合理的理由はなく、右3の(1)の材料費の計算方法は恣意的なもので、客観的妥当性を欠いている。

よって、原価計算表(B)は妥当なものではない。

(二)  植村組およびそれ以外との各取引実績による原価計算表(B)の検討

1 原価計算表(A)によるPS部門の製品トン当り製造原価を一〇〇とした場合の、同(B)によるPC矢板、PS桁・PC板の各製品トン当り製造原価の各指数は別表(一三)中2欄に、別表(四)の一ないし三による植村組およびそれ以外との各取引におけるPS部門の各製品トン当り平均販売額をいずれも一〇〇とした場合の、右各取引におけるPC矢板、PS桁・PC板の各トン当り平均販売価額の各指数は別表(一三)中(4)、(6)欄に、同(B)におけるPC矢板、PS桁・PC板の、同(A)におけるPS部門の各トン当り製造原価をいずれも一〇〇とした場合の、右各取引における、これらと対応する各PC矢板、PS桁・PC板、PS部門の各トン当り平均販売価額の各指数は別表(一三)中<イ>、<エ>、<カ>欄に順次記載のとおりである。

2(1) PS部門の製品は、ほとんど受注生産であるから、その販売価額は、おおむね同一の総益率によって決定されるものとみられる。そうすると、PC矢板とPS桁・PC板のトン当り各平均販売価額の比率は、トン当り各製造原価の比率に近似しているはずである。

そこで、原告、被告間で販売価額の相当性に争いのない植村組以外との取引におけるPC矢板とPS桁・PC板のトン当り販売価額の比率は、別表(一三)中(4)欄記載のとおり九五対一二七であるから、トン当り製造原価の比率も右数値に近似しなければならない。

ところが、原価計算表(B)によるPC矢板とPS桁・PC板のトン当り製造原価の比率は、右数値と異なり別表(一三)中(2)欄記載のとおり六六対一五一なのである。

(2) また、原価計算表(B)によるPC矢板のトン当り製造原価を一〇〇とした場合の植村組およびそれ以外の各取引のPC矢板のトン当り各平均販売価額の各指数は、別表(一三)中<イ>欄記載のとおり植村組との取引は一三一であるのに、それ以外との取引は三二九と異常な高率を示している。

(三)  工場別PS部門の原価計算の比較検討

1 原告はコンクリート製品の製造工場として川内工場の他に鹿屋工場、熊本工場、都城工場を有しているが、このうち都城工場を除いた各工場にはPS製品の製造部門があり、同部門ではPS桁・PC板のみを製造している。

2 そして、川内工場の原価計算表(A)、(B)と鹿屋工場、および熊本工場の各PS桁・PC板の原価計算を比較すると別表(一四)記載のとおりである。

同表によれば原価計算表(B)によるPS桁・PC板のトン当り製造原価と鹿屋工場、および熊本工場の各原価計算によるPS桁・PC板のトン当り製造原価を比較すると、鹿屋工場は二、六四六円、熊本工場は一、〇五二円も少いのである。

3 原価計算表(B)によれば、大量生産による製造原価の引下げが行なわれると見られる川内工場のPS桁・PC板の製造原価が鹿屋工場および熊本工場に比較して高いということは、同(B)における原価要素の配分計算が合理性を欠き妥当でないからである。

(四)  植村組以外との取引におけるPC矢板およびPS桁・PC板の各トン当り製造原価の検討

PS部門の製品は、製造原価に一定の割合の一般管理費を加えたものを販売原価とし、これに適正な利益を加算したものをもって販売価額が決定されるから、植村組以外の取引先に販売された、当期分、昭和三九年九月一日から昭和四〇年八月三一日までの事業年度(以下「前期」という)分、前期、当期を通じた分の各PC矢板と各PS桁・PC板のトン当り製造原価は計算書(四)記載の計算によって求められる。

これによると、PC矢板のトン当り製造原価は最も少ない場合であっても六、七二九円を下回ることはなく、PS桁・PC板は九、四二二円を上回ることはないのであるから、PC矢板のトン当り製造原価が四、九四〇円、PS桁・PC板のそれが一万一、二六三円であるとする原価計算表(B)は妥当でない。

六、被告の反論に対する原告の答弁

(一)  被告の反論(一)の1ないし3の各事実は認める。

(二)  同(二)の各事実は知らない。

(三)1  同(三)の1の事実は認める。

2  同2のうち、別表(一四)中川内工場欄記載の事実は認めるが、その余の事実は知らない。

3  同3は争う。

PS部門の製品は各工場それぞれ製品内容が異なるので、各原価要素とも同一の単価となることはない。また、川内工場で大量生産が行なわれたのはPC矢板(当期中の生産高、四、二五四トン)であって、その余のPS製品は鹿屋工場一、〇九三トン、熊本工場一、二九〇トンに対し、川内工場は七四一トンと最も少ないのである。したがって、川内工場のPS桁・PC板の製造原価が鹿屋工場および熊本工場に比べて割高となるのは当然のことである。

(四)  同(四)のうち、植村組以外に販売された当期分、前期分、前期当期を通じた分の各PC矢板と各PS桁・PC板のトン当り製造原価の計算方法および計算結果が計算書(四)記載のとおりである旨の被告の主張は争う。その余の事実は認める。

被告は植村組以外との取引について当期のPC矢板のトン当り製造原価を七、〇三七円とするが、右取引のPC矢板の売上金額四八九万九、六〇〇円に対応する製造原価をトン当り七、〇三七円で計算すると二一三万五、五一八円となるから売上利益は二七六万四、〇八二円となり、売上総益率は、約五六%の異常な高率となる。

同様に、PS桁・PC板のトン当り製造原価を九、四二二円とするが、右取引のPS桁の売上金額は一七六万六、八〇〇円に対応する製造原価をトン当り九、四二二円で計算すると一〇五万六、〇二七円となるから売上利益は七一万〇、七七三円となり、売上総益率は約四〇%となる。

同様にPC板について計算すれば、売上金額は七六万三、五七〇円、製造原価は二八万二、三六八円、売上利益四八万一、二〇二円となるから、売上総益率は約六三%の異常な高率となる。

被告の主張するように、PC矢板、PS桁、PC板の各重量単位当りの製造原価が同一かまたは大差のないものであれば、各売上総益率も大差のないものとなるべきはずである。しかるに、売上総益率が右のとおりPC矢板五六%、PS桁四〇%、PC板六三%と大差を示し、しかもPC矢板とPC板については異常な高率を示している。このことは、PS部門の各製品の原価に大差のあることを示している。

第三、証拠

一、原告

(一)  甲第一ないし第三号証、同第四、第五号証の各一ないし七、同第六号証の一ないし四、同第七号証の一ないし三、同第八、第九号証、同第一〇号証の一、二、同第一一号証の一ないし三、同第一二号証を提出。

(二)  証人西光夫、同橋口秀一、同寺迫五男、同植村春吉、同羽子田近の各証言、原告代表者松下嘉明本人尋問の結果を援用。

(三)  乙第三号証、同第九号証、同第一一号証、同第二〇号証の一、二、同号証の三の一、二、同第二一号証の二、同号証の四ないし七、同第二二号証の二、および四ないし六、同第二三号証の二、同第二四号証の二ないし八、同第二五号証の二、同第二六、第二七号証の各二、および四ないし七、同第三二号証、同第三三号証の一ないし三の成立は知らない。乙第一八号証の八のうち、枠外の記載部分の成立は知らないが、その余の記載部分の成立は認める。乙第一八号証の一四のうち、規格、数量、トン数の記載部分の成立は認めるが、その余の記載部分の成立は知らない。乙第三一号証の一ないし八のうち、各活字部分の成立は認めるが、その余の記載部分の成立は知らない。その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

二、被告

(一)  乙第一号証の一ないし一三、同第二号証の一ないし六〇、同第三ないし第七号証、同第八号証の一ないし四、同第九号証、同第一〇号証の一、二、同第一一号証、同第一二号証の一、二、同第一三号証の一ないし五、同第一四、第一五号証、同第一六号証の一、二、同第一七号証、同第一八号証の一ないし一四、同第一九号証、同第二〇号証の一、二、同号証の三の一、二、同第二一号証の一ないし七、同第二二号証の一ないし六、同第二三号証の一、二、同第二四号証の一ないし八、同第二五号証の一、二、同第二六、第二七号証の各一ないし七、同第二八号証の一ないし四、同第二九号証の一ないし三、同第三〇号証の一、二、同第三一号証の一ないし八、同第三二号証、同第三三号証の一ないし三、同第三四号証を提出。

(二)  証人尾崎勘市、同西村敏男、同入佐俊治の各証言を援用。

(三)  甲第五号証の三、同第八号証、同第一一号証の一ないし三、同第一二号証の成立は知らない。その余の甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

第一本件処分

請求原因(一)および(二)の1のうち、事実誤認により違法である旨の主張を除くその余の各事実は当事者間に争いがない。

第二翌期への売上繰延べによる当期売上計上洩れ

一、被告の主張(一)の1のうち、原告が別表(一)記載の各製品を植村組および植村産業に対する翌期への売上として、同表中原告公表売上計上高欄記載の各数量(内書分は植村産業に、その余は植村組に各販売したもの)、各販売価額(単価)により計上したことは、当事者間に争いがない。

二、そこでまず、別表(一)中(1)、(2)に各記載の各PC矢板は、当期の売上に計上すべきものであるか判断する。

(一)  右一の争いのない事実に、証人西村敏男の証言により同証人が作成したものと認められる乙第三号証、成立に争いのない同第四ないし第七号証、同第八号証の一ないし四、証人尾崎勘市、同西村敏男、同西光夫(後記の措信しない部分を除く)、同羽子田近の各証言、および原告代表者松下嘉明本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができる。

1 右PC矢板は、植村組(買主)が県から請負った川内港の導流堤工事に使用するため、当期末以前に原告(売主)と同表中原告公表売上計上高欄記載の各数量、各販売価額(単価)による売買契約を締結したもので、いずれも当期に川内工場において植村組に引渡されて、植村組の費用で川内港の植村組の導流堤工事現場附近に搬入された。

2 右PC矢板の右売買については、あらかじめ原告と植村組の間で、植村組において現実に打込の完了したPC矢板の分を、一箇月ごとに、打込の完了したその月末にまとめて売上に計上するとの合意がなされており、原告は右合意に基づいて翌期に打込の完了した右PC矢板を、翌期の打込の完了した月の売上に計上した。

右の通り認められる。

(二)  右(一)の1の認定事実のうち、右PC矢板の引渡時期、引渡場所についての認定部分を除く、その余の認定部分に反する証拠はなく、右に除外した認定部分に反する証人西光夫の証言は、右PC矢板が原告川内工場を搬出してから後の、右PC矢板の管理場所、管理方法等に曖昧な点が多く、右に除外した部分の認定にそう前掲記の各証拠に照らし措信し難く、他に右除外部分の認定を覆すに足る証拠はない。

また、右(一)の2の認定に反する証拠はない。

(三)1  ところで、資産の売買に関する収益の帰属すべき事業年度については、法人税法およびその関係法令上、直接には規定がないが、法人税法第二二条第四項は損益の計算について一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべき旨規定しているところ、企業利益計算上の会計慣行の準則である企業会計原則(経済安定本部企業会計制度調査会昭和二四年七月、中間報告)は、損益の計算については原則としていわゆる発生主義によるべきとしつつも(同一A)、商品等の売上高についてはいわゆる実現主義の原則に従うべき旨規定している(同三B)こと、同条第三項第二号は損金の計算について、いわゆる権利確定主義を採用すべき旨規定していること、および法人税法の要請する課税の公平、明瞭、確実、普遍等の諸原則を勘案すると、原則として売買契約の効力の発生する日の属する事業年度の益金に算入すべきである(いわゆる権利発生主義)が、商品、製品等の販売にあたっては、引渡あるいは検収完了等、所得を生ずべき権利の所得実現の可能性が確実になったものと客観的に認められるに至った時期を含む事業年度の益金に算入すべきである(いわゆる権利確定主義)とするのが相当である(法人税法基本通達第二四九号参照)。

2  そうすると、右PC矢板は当期の売上に計上すべきかの問題は、当期中に右PC矢板の売買代金債権の所得実現の可能性が確実になったものと客観的にいえるか、というに帰着する。前記(一)の1に認定したとおり、右PC矢板の原告から植村組に対する引渡時期は当期であるところ、証人羽子田近の証言によれば、PC矢板の打損じを生ずるのは稀であることが認められ、右認定に反する証拠は何もなく、また現に右PC矢板の打込に際し、打損じを生じたと認めうる証拠はないから、前記(一)の2の認定事実にかかわらず、右PC矢板の売買代金債権は、その引渡のなされた当期中に確定したと認めるのが相当である。

よって、右PC矢板の売上は当期の売上に計上すべきであるのに翌期の売上に繰延べ計上されたことになるから、右売上合計六五四万一、〇〇〇円は、当期の売上計上洩れと認めることができる。

三、次に別表(一)中(3)ないし(5)に各記載の各製品は、当期の売上に計上すべきものであるか判断する。

前記一の争いのない事実に、前記乙第三ないし第七号証、同第八号証の一ないし四、証人尾崎勘市、同西村敏男の各証言に弁論の全趣旨を総合すると、右各製品は植村組および植村産業(買主)が原告(売主)と、当期末以前に同表中原告公表売上計上高欄記載の各数量(内書分は植村産業に、その余は植村組に対し各販売したもの)、各販売価額(単価)による売買契約を締結したもので、いずれも当期中に原告から右各買主に引渡されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、右認定事実にかかわらず、右各製品の売上が翌期に計上されるべきものであるとの特段の事由について、何らの主張および証拠もないから、右各製品の売上は、その引渡のなされた当期の売上に計上すべきものと認められる。

よって、右各製品の売上は、当期の売上に計上すべきであるのに、翌期の売上に繰延べ計上されたものであるから、右売上合計一一六万一、九七五円は当期の売上計上洩れと認めることができる。

四、以上から、翌期への売上繰延べによる当期売上計上洩れは、合計七七〇万二、九七五円となる。

そして、右売上計上洩れに対応する売上原価八一〇万七、四八八円が当期末のたな卸高に計上されていること、および右たな卸高を基礎とする価格変動準備金は四〇万四、四一三円が計上されていることは当事者間に争いがない。

第三、同族会社の製品低価譲渡による売上計上洩れ

一、被告の主張する原告(同族会社)の製品低価譲渡による売上計上洩れについて判断する。

そもそも、法人税法第一三二条第一項が同族会社の法人税につき更正または決定をする場合において、その法人の行為または計算でこれを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為または計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準もしくは欠損金額または法人税の額を計算することができる旨規定しているのは、非同族会社においては会社と社員、あるいは社員相互の利害対立を通じて、当該法人の所得、法人税の負担をことさら減少させるような行為がなされにくいのに対し、同族会社においては、その経営権が一部の社員に独占されているため、いわゆる「隠れた利益処分」等の合理的理由を欠き、当該法人の所得、法人税の負担を減少させる行為がなされやすく、これを放置するにおいては、租税負担の公平の原則に反することになるからであり、同族会社のかかる行為のうち不当に法人税の負担を減少させるものについて右のとおり規定したものである。

したがって、同族会社のなした製品の低価額による譲渡が右法条の適用を受けるには、その販売価額が非同族会社の通常の取引における、同一種類、品質、型の製品の販売価額に比して異常に低いもの(以下「異常低価額」という)であること、およびそのような低価額による製品の販売について合理的理由(販売時期、販売地域、数量、会社の営業方針、取引条件、取引先との関係等)がないことが要件であると考えられる。

そして、非同族会社の通常の取引における製品の販売価額は、同一種類、品質、型のものであっても、そこには高低自ら巾があるものと思慮せられるから異常低価額とは、いわゆる時価を下回るだけでなく、非同族会社の通常の取引において考えうる最低の販売価額(当該製品の製造原価、あるいは非同族会社の取引における実際の最低販売価額のいずれか低い方、〔以下「最低販売価額」という〕)をも下回る意味に解するのが相当である。同族会社の異常低価額による製品の販売について、税務署長は、右法条により異常低価額による製品の売買を否認して、最低販売価額による製品の売買を認定することができるのである。そして、税務署長は、同族会社の製品販売価額が最低販売価額を下回っていることを主張、立証しなければならず、またそれでよく、右事実が証明されれば、これを争う側において、当該製品の異常低価額が合理的理由のあることを主張、立証しなければならないとするのが相当である。

二、被告の主張(二)の1の事実は当事者間に争いがない。

そして、本件PC矢板のうち、別表(一)中(1)、(2)に各記載のものは当期に、同表中原告公表売上高欄記載の各数量、各販売価額(単価)により販売されたことは、前記第二の二の(一)の2に認定したとおりであり、別表(二)記載のものは当期に同表中原告公表売上計上高欄記載の各数量、各販売価額(単価)により販売されたことは当事者間に争いがない。

三、そこで、本件PC矢板の最低販売価額について検討する。

(一)  本件PC矢板の製造原価(原価計算表(A))

1 被告主張(二)の3の(1)のイないしハの各事実は当事者間に争いがない。

2 しかし、原告がPS部門の製品につき、種類、品質、型の異なるごとに区別せず、製品トン当り七、四二七円で一括して原価計算をした理由として、原告が同部門の製品については、どの種類、品質、型のものであっても、そのトン当り製造原価はほぼ同一であると判断したものであるとの被告の主張を認めうる証拠は何もない。

かえって、原価計算表(B)の内容の当否はともかく、証人橋口秀一、同寺迫五男の各証言を総合すると、PS部門の製品は、ほとんど受注生産であり、種類、品質、型の異なるごとに製造方法、材料等が異なるので、PS部門のたな卸資産を正確に評価するには、受注ごとの種類、品質、型別の製造原価を計算しなければならないが、これをなすとすればPS部門の製品の種類、型が多数なため、計算が技術上複雑であるほか、川内工場における原価計算事務は、原告経理係長寺迫五男一人が担当者であったことにより、計算に長時間を要することになるところ、当期の決算は昭和四一年一〇月中に開かれる原告取締役会までには終了していなければならなかったので、右寺迫はやむをえず、原価計算表(A)ではPS部門の製品の製造原価の差を無視して、一括してトン当り七、四二七円と計算したうえ、同製品の当期末たな卸資産の評価を一括して製品トン当り七、四三〇円で計算したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

原価計算表(A)が作成された右経緯に鑑みると、その計算結果から、直ちに本件PC矢板の製造原価を認定することができないことは明らかである。

(二)  植村組およびそれ以外との各取引における販売実績

被告の主張(二)の3の(2)の各事実は当事者間に争いがないが、植村組およびそれ以外とに各販売されたPC矢板の規格は、別表(四)の一ないし(三)の各規格欄に記載のとおり著しい差があるところ、PC矢板はどの規格でもトン当り製造原価は、ほぼ同一であることを認めうる証拠は何もないから、右各取引におけるPC矢板の販売価額を比較しても、無意味である。

(三)  県導流堤工事設計額

1 被告の主張(二)の3の(3)のイの事実は当事者間に争いがない。

2 右請負工事の各契約別の工事名、工事場所、工事期間、請負金額は別表(五)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第二一、第二二号証の各一および三、同第二三、第二四号証の各一、同第二六、第二七号証の各一および三および証人入佐俊治の証言により真正に作成されたものと認められる同第二一号証の二および四ないし七、同第二二号証の二および四ないし六、同第二三号証の二、同第二四号証の二ないし八、同第二六、第二七号証の各二および四ないし七によれば、右各請負工事代金の設計額(鹿児島県が入札前に作成した各契約ごとの見積)、および各設計額におけるPC矢板の設計額は別表(五)中単価の計算欄記載のとおり製品キログラム当り一七・三ないし一七・八円であることが認められ右認定に反する証拠はない。

3 別表(五)記載の各請負工事の請負金額の設計額に対する割合はいずれも約九九%であるから、右各設計額の積算要素たるPC矢板の価額が入札によって圧縮されるという程の影響はないものと認められる。

4 ところで、右PC矢板の設計額の計算について、証人入佐俊治の証言によれば、鹿児島県川内土木事務所において、右工事代金設計額は積算されたものであるところ、その積算の際、PC矢板の価額を決定するのに、直接参考となる資料がなかったので、鹿児島県土木部で作成した資料に掲載されていたPS桁の価額を参考にしてPC矢板の価額を算定したことが認められ、右認定に反する証拠はないものの、結局PC矢板の価額算定の具体的方法、根拠を認めうる証拠は何もない。

したがって、PC矢板の右設計額を、本件PC矢板の最低販売価額認定の資料に用いることはできない。

(四)  市場価額

1 被告の主張(二)の3の(4)のイの事実は当事者間に争いがない。

しかし、原告発行定価表は、原告側で決めたいわゆる「言値」であって、本件PC矢板の最低販売価額認定の資料に用いることができないのは明らかである。

2 被告の主張(二)の3の(4)のロのうち、建設物価誌によれば、長井式コンクリート矢板、圧力養生コンクリート矢板の昭和四一年ころの各規格、各地地域別の製品トン当り市場価額は別表(六)中2、3欄に各記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、これによれば、最低価額のものは圧力養生コンクリート矢板(SG-A長さ八メートル、厚さ一二センチメートル、巾一〇センチメートル)の大阪地域の工場渡し価額が一本当り一万六、二九〇円(トン当り一万五、〇八三円)である。

しかし、本件PC矢板と、右長井式コンクリート矢板および圧力養生コンクリート矢板とが、製造方法、材料等において、どの点が同一であり、あるいは異なっているかを具体的に認める証拠は何もないのであるから、右長井式コンクリート矢板、および圧力養生コンクリート矢板の市場価額を本件PC矢板の最低販売価額認定の資料に用いることはできない。

(五)  以上によれば、本件PC矢板の最低販売価額を認定することはできず、他にこれを認めうる証拠はない(昭和四一年三月三一日に販売された別表(二)中(2)記載のPC矢板の販売価額(単価)は一万六、〇〇〇円であるのに、これと同一の同表中(1)記載のものが昭和四〇年一〇月三一日には単価二万八、六〇〇円で販売されていたこと、および昭和四一年三月三一日に販売された同表中(4)記載のPC矢板の販売価額(単価)は一万四、〇〇〇円であるのに、これと同一の同表中(3)記載のものが昭和四〇年三月三一日には単価二万四、五〇〇円で販売されていたことは当事者間に争いがないものの、右の値引の事実から直ちに、最低販売価額を認定することができないことは明らかである。)。

第三、結論

以上の事実を基礎に原告の当期の課税所得を計算すると、計算書(三)中認定額欄記載のとおり、六、八〇三万一、七〇七円となる(同計算書中原告主張欄と一致する更正額欄の各記載は当事者間に争いがない)ので、本件処分のうち、課税所得金額六、八〇三万一、七〇七円を基礎として算出される税額を越える部分は違法であるから、本件処分のうち、課税所得金額六、八七〇万六、二二〇円を基礎として算出される税額を越える限度において取消を求める原告の請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 湯地紘一郎 裁判官 坂主勉 裁判長裁判官寺井忠は転任のため、署名押印することができない。裁判官 湯地紘一郎)

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

<省略>

別表(三)

原価計算表(A)

川内工場

昭和41年8月

<省略>

当期製造高

<省略>

別表(四)の一

PS部門製品の種類別売上状況表

自昭40.9.1

至昭41.8.31 (当期)

<省略>

別表(四)の2

<省略>

<省略>

別表(五)

川内港改修工事関係PC矢板工設計額内訳表

<省略>

別表(六)

PC矢板価格対比表

<省略>

別表(七)

原価計算 (B)

川内工場 41.8.31

南日本高圧コンクリート株式会社

<省略>

別表(八)

<省略>

別表(九)

<省略>

別表(一〇)

<省略>

別表(一一)

<省略>

別表(一二)の1

川内工場 原価計算表対比表

昭和41年8月31日

<省略>

〔注〕「決算(A)」は原価計算表(A)により、「修正後(B)」は原価計算表(E)によつてそれぞれ調整した。整した。

<省略>

別表(一二)の2

<省略>

〔注〕「決算(A)」は原価計算表(A)により、「修正後(B)」は原価計算表(B)によつてそれぞれ調整した。

別表(一三)

<省略>

別表(一四)

PS部門原価計算表工場別比較表

<省略>

〔注〕「決算(A)」は原価計算表(A)により、「修正後(B)」は原価計算表(B)によつてそれぞれ調整した。。

計算書(一)

<省略>

計算書(二)

<省略>

計算書(三)

<省略>

<省略>

原価

(植村組以外に販売分)

注1. PS部門販売総重量 362.01トン

注2. 原価計算表(A)のPS部門製品のトン当り製造原価 7,423円

注3. PS部門総売上額 6,165,330円

注4. PC矢板売上額 4,899,600円

注5. PC矢板販売重量 303.456トン

注6. PS桁、PC板の合計売上額 1,265,730円

注7. PS桁、PC板の合計販売重量 58.554トン

注8. PS部門販売総重量 304.082トン

注9. PS部門総売上額 6,353,920円

注10. PC矢板売上額 2,168,600円

注11. PC矢板販売重量 111.387トン

注12. PS桁、PC板の合計売上額 4,185,230円

注13. PS桁、PC板の合計販売重量 192.695トン

計算書(四)

植村組以外との取引におけるPS部門各製品のトン当り製造

<省略>

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